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あみものに必要なもの
晩夏の頃、風の中にふっと秋の気配を感じる朝。乾いた洗濯物をたたむ夕暮れ、開け放った窓からの涼やかな風に毛糸の感触が恋しくなったら…。編むことがお好きな方は、編みたいものが次々と浮かんでくるのではないでしょうか(もちろん、一年中編みたい方もおられます)。帽子や靴下、マフラーやショール、白いアラン模様のウェアや家で気軽に着られるベスト。フェアアイルにも挑戦したい。書店にも編み物の本が並び始めます。ページを繰る毎に現れる素敵な作品を眺めるのも至福のひと時。編みたい作品を見つけたなら、すぐにでも手を動かしたくなるのが人情というもの。ここでは、編物に必要なものについて、お話してみます。
編むことに必要なのは、好きな毛糸とその糸に合う棒針。糸切りばさみと毛糸針。それから15センチ位の定規とメジャー。編み目に印をつけるマーカーや鈎針もあると便利ですが、それらは必要に応じて揃えていけば大丈夫です。意外と少ない?では順を追ってご説明しましょう。
まず糸について。本に載っている作品を編む場合は、指定糸、または近い太さの糸をご用意下さい。糸のラベルには1玉の重さと長さが記載されていますので、そちらを参考に。個人的には指定糸であっても好きな色を、または(太さの近い)好きな糸で編むことをお勧めしています。特に色はとても大切で、その人らしさが表れるもの。服とのコーディネートを考えた時、好きな色は合わせやすいことが多いのです。
次に針について。棒針は今、様々な種類のものがあり、どれを買えばいいのか迷われる方も多いようです。編む時間は長いので、気持ちよく編める道具は大切です。全くの初心者でまずはシンプルなマフラーを編みたい、という方でしたら、長さ23センチ程の玉付き2本棒針をお勧めします。けれど、いつかはウェアも編んでみたいという方には、輪針が良いと思います。輪針は編み地を輪(筒状)に編むだけではなく、平面に編むこともできます。出来ればコードと針先が別売りになっていて、コードと針先をつなげて使うタイプのものがベター。経済的に無駄がなく、色々なサイズが使えて便利です。針の太さは規格で決まっていますが、針先の形状はメーカーによる違いがあります。なので、まずは試してみる。そして自分に合えばそのメーカーの針を揃えてみるのが良さそうです。別な視点から言えば、買い易いことも大事なことです(針を買い足す場面は意外に多いので)。参考までに、私が良く使う針はTULIPの付け替え輪針とクロバーの短針(両側から編めるタイプで5本、又は4本でセットになっているもの)です。TULIPの針はコードの柔らかさと買い易さから、クロバーの短針は編み地サンプルを作る時に使います。針先はクロバーの、丸みのある形が私には合っているみたい。編む時に針先を指で押す癖があるので、針先が細いタイプは指が痛くなってしまうのです。
糸切ばさみは、お好みで。ただし、私は糸以外のものは切りません。刃先を研ぐなどのケアをして下さるお店で買えると良いと思います。糸を切る時は、パチンと切りたいもの。刃先から糸が滑る感覚があれば、研ぎ直しをお勧めします。毛糸針は糸始末用に必要ですから、糸の太さに合うものを用意して下さい。定規はゲージを測るために、メジャーは時々編み地の寸法を確認するために使います。これらもお好みのものをお使い下さい。
編む時間を心地良いものにするためにも「好き」と思う感覚を大切にしてみて下さい。私は、自身の感覚から手に触れるものは出来るだけ自然の素材でありたいですし、デザインにストレスを感じるものは身の周りには置きません。自分が何をどう感じるか、それを自覚することはデザインする上でとても重要だからです。
編みたい作品が載っている本や編み図の他に、編物の基礎本(記号図や技法について、そのやり方が詳しく載っている本)を一冊準備されると良いと思います。どの本が良いかは、その人次第。見て分かりやすいもの、この本を傍に置いておきたいと思える本が良いと思いますが、好きな一冊を選べるほど基礎本が充実している書店は少ないのが現状かも知れません。私自身は学生の頃から「手あみのテクニックブック 棒針編み・かぎ針編み・アフガン編み」(日本ヴォーグ社)を使っています。基礎本としては薄い本かも知れませんが、基本的なことが分かりやすく載っています。お教室の時にも必ず持っていきます。編物の技法は暗記する必要はないので、ちょっと確認したい時に重宝しています。
そして何より必要なもの。それは「編みたい!」と思う気持ちです。これがなければ始まらない、つい手が動いてしまう衝動のようなもの。お教室に来て下さる方の中には「初心者なのに、こんなに難しそうなものを編んでいいのかしら」と仰る方もおられます。けれど、その人の技量を拝見しつつ、私は背中を押してあげたい(もちろん、簡単なものから少しずつステップアップしたい、という方のために、それはまた別の機会にお話しします)。トライアンドエラーを繰り返しながら、自分に足りない部分を知り、難しいと思う部分は練習してみるとよいのです。編む技術は、教えてもらうというよりも、自分で色々試しながらコツを掴んでいくという姿勢が大切です。それに実際に編んでみると、思っていたほど難しくはないかもしれませんよ。出来なかったことが、出来るようになる。そんな成長の喜びを感じられるのは、「編みたい」という強い気持ちがあればこそ。心の底から「編みたい」と思っていただける作品をお届けできますように、私も成長していきたいと思います。