はじめに

 

 私が棒針編みを始めたのは中学1年の冬のことでした。鉤針編みは子どもの頃-ひらがなを覚えるのと同じ時期-に母に手ほどきを受けて以来、日々何かしら編んでいましたが、中学生になった時、急に大人になった気がして、何か新しいことをしてみたかったのです。

 母に教えて欲しいと頼むと、あっさり断られました。そして自分の力でするよう、言われました。母は機械編みでセーターをよく編んでいました(編機の板がすり減るほどに!)し、人から頼まれもしましたが、棒針編みを習ったことはありませんでした。そんな自分が私に教えて、変な編み癖がつくのを心配していたようでした。

 仕方なく、手元にあった手芸の本の、編み物のページを開いてみました。絵に書いてある通りに糸と針を持ち、手を動かすと、作り目ができました。そして2段目。左手に糸をかけて作り目をした針を持ち、右針を手前から編み目に入れて、糸をかけて引き出…せない。何度試しても、糸がするりと逃げてしまう。あれ?1目も編めません。

 13才の私にとって「あむ」ことは、すでになくてはならないものになっていました。「これで私のあみもの人生が終わってしまうのかしら」と悲しい気持ちになりました。でも、本の通りでなくても、この編み目から糸を引き出しさえすれば良いのです。少し考えて、糸を右手の親指と人差し指でつまむように持ちました。右針を編み目に入れたら、針が落ちないように左手の指で支える。糸を針の下からかけ、編み目の中から糸を引き出す。できた!1目編めた!!あっけないほど簡単に。

 

 

 さて、何とか編めるようになった私は、その後様々な謎に直面しながらも(編み地に表と裏があることを知らなかった私は、メリヤス編みの編み方すら分からなかったのです)、編みたい、という気持ちだけで次々とセーターやカーディガンを編んでみました。でも、何かが違うのです。編み図を、その通りに編むことは出来るようになりました。けれど写真の作品とは違う。何が違うのだろう。本の作品を編む方は経験が豊富で、技術的にも素晴らしいものをお持ちなのでしょう。少しでもそこに近づきたい。でも具体的にどうすればいいのかはわかりません。私のコーディネートが変だから?モデルさんが可愛いから?顔はどうしようもないのですが、どうしたら本のように編めるのだろう。「習ったことがない」というコンプレックスから抜け出し、編むことで生きていきたいと思った私は、基本を学ぶために編み物の専門学校へ行くことにしました。その後、糸メーカーで働いたり、編んだものをお店に置いて頂いたりするうちに、自分で編んだものが本に掲載されるようになりました。

 

 今の私なら、あの時の私にかけてあげられる言葉があるのです。それは決して難しいことではありません。細部を積み上げていく、という感覚でしょうか。そんなことを少しずつ綴ってみたいと思います。文章が長くて恐縮ですが、お付き合いくださる方がおられましたら、また、文章の中にご自分の編み物に対する問いの答えを見つけて頂けましたら、これほど嬉しいことはありません。

一口に「あみもの」と言えど様々な技法がありますが、こちらでご紹介するのは主に棒針編み(knitting)について、です。また「棒針編み」にも色々なやり方があります。私がお話しするのはその中の、ほんの一部にすぎません。編物を習われた方には違和感ある内容が含まれているかもしれませんが、ケースバイケースの場合もあります。正誤をただすというよりも、ご自身の判断で、やり易い方法で編んで頂けたらと思います。

仕事の合間に、ゆるりと綴ってまいります。

どうぞよろしくお願い致します。

© 2019  Sanae Nasu. 

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